【ヘルスケア・インタビュー】
“月経ディスク”という新しいジャンルを築いた
フレックス社創業者でCEOのローレン・シュルト・ワンさんに聞く
『商品開発の背景と現状、そして日本での取り組み』
フェムテック市場が拡大する中、先ごろ開催された『ビューティワールド 東京』に出展し話題を集めていた生理ケア製品がある。アメリカのフレックス社が開発し、2016年に”月経ディスク(注)”のカテゴリーを創設してから9年の今、ドラッグストアなどの小売店で販売され、全米売上げNo.1となった使い捨ての生理ケア用品『Flex月経ディスク』だ。同商品を出展していたのは、2024年1月にフェムテック事業を立ち上げ、10月に日本国内で普及活動を開始した創業55年の株式会社ニッセイエコ。同社のブースには、来日した月経ディスクという新しいジャンルを築いたフレックス社創業者でCEOのローレン・シュルト・ワン(LAUREN SCHULTE WANG)さんが、スタッフと共に来場者にアピールしていた。「当社のミッションは、生理に対する偏見をなくし生理中のすべての人が、健康で快適に過ごせるよう支援すること」として、「日本で新しい生理ケア用品の定番となり、女性がもっと自由なライフスタイルを楽しめるようになることを目指したい」と語るローレンさんに、開発に至る思いやアメリカでの普及状況、日本での取り組みについて聞いた。(流通ジャーナリスト・山本武道)
ーー「DON’T BLAME YOUR BODY(自分の体を責めないで!)」――月経ディスクという新しいジャンルを初めて築いたローレンさんは、開口一番、こう語った。
「私は長年、生理は不快なものだと受け入れてきました。でも悪いのは私の体ではなく、使っていた製品でした。そこで私は、生理がある全ての人が快適に過ごせるように、フレックス社を立ち上げた」のが創業の原点だったという。
――フレックス社は、いつ創設されたのですか?
ローレン・シュルト・ワンさん(以下、ローレンさん):当社(The Flex Co.)は、アメリカ発のサステナブル生理用品を展開する企業で、『Flex月経ディスク』を主力製品として活動しており、日本では独占販売代理店の株式会社ニッセイエコを通じ、サステブルな生理ケア用品とし販売されています。
2015年にフレックス社を旗揚げしてから10年、月経ディスクのカテゴリーを創設してから9年が経過しました。Flexブランド製品は、当初オンラインルートで販売したところ大変よく売れました。現在では、アメリカのドラッグストアなど3万店を越す小売店で販売されていて、これまでに1億5000万枚以上を販売し生理ケア用品の月経ディスク部門で全米売上げNo.1となっています。
アメリカでは、人口の95%以上が、自宅から5マイル(約8km)圏内にある小売店を利用しています。中でも、ヘルスケア商品を求める多くの女性に支持されているドラッグストアで、最も売れている生理ケアブランドがFlexです。
――フレックス社では、新しいナプキンを開発されたそうですが・・・。
ローレンさん:アメリカには、いろいろなナプキンがありますが、当社が開発し売り出したのが竹由来のナプキンです。当社の製品は、体に優しい素材を採用することにこだわっており、竹由来のナプキンもドラッグストアで売っていただいています。
ドラッグストアに来店されたお客様が、他社製品のナプキンを買っていただいた際に、フレックス社製のナプキンやディスク、カップを手に取って認知していただくなど、女性の健康管理に不可欠な存在として、体に安全な素材を使用したサステナブルな製品を展開し、裾野を広げるマーケティングを展開してきました。
Flexブランドの製品は、品質管理を徹底しており、第三者機関の検査をクリアしたものしか販売していません。すべての製品には、鉛やヒ素といった有害物質、PFAS (有機フッ素化合物)などの永久化学物質は、いっさい含まれていません。月経ディスク及び月経カップは、産婦人科医の認証を受けており、BPAフリーで低刺激性・低アレルギーでもあります。当社製品は、同じ厳格な基準のもとで製造されており、体に安心・安全な製品を提供しています。
私自身、タンポンとナプキンを使ったことによる炎症で、15年間も悩まされてきたことがきっかけで、月経ディスクを開発し提供してきましたが、タンポンよりも使いやすく、従来の生理用品にない利点がたくさんあります。
――使い捨ての『Flex月経ディスク』ですが、アメリカではどのようなルートを通じ販売されているのですか?
ローレンさん:使い捨ての『Flex月経ディスク』は、アメリカの多くのドラッグストアの棚に置かれているのですが、10年前に起業した当時、Flexブランドは、そうではありませんでした。ドラッグストアで販売を始めた際には、いろんな方から『こんな製品は取り扱っても成功しない』と何度も否定的なことを言われましたが、根気よく製品の特徴や使い方を説明し、やがてドラッグストアルートで、ものすごく売れる製品になりました。
当初はオンラインでもよく売れましたが、今や全米で一番売れるルートはドラッグストアです。店頭では、実際に製品を手に取っていただく機会はあるものの、ただ棚に並べられているだけでは、月経ディスクやカップの特徴や魅力を十分にお伝えするのは難しいのが現状です。そのためSNSなどを通じ、より親しみやすくわかりやすい情報発信とマーケティングに注力してきました。
今では、ドラッグストアで売れているのが『Flex月経ディスク』ですが、月経カップもよく売れています。近隣にドラッグストアがない地区に住む人にとっては、SNSであれば幅広い商圏で、より多くの方たちに生理用品を販売できるというメリットがありますし、自宅に居ながらオンラインで手軽に購入することができるのですが、今すぐほしいという場合は、やはりドラッグストアに買いに行く人が多いですね。
――日本に初上陸したのは、いつですか?
ローレンさん:2024年9月、当社とニッセイエコが、日本における独占販売契約を締結し、10月から『Flex月経ディスク』が発売されました。女性のための健康管理に役立つ生理ケア用品として日本市場では、まだ新しいカテゴリーですが、やがて日本で新しい生理ケア用品の定番となり、女性がもっと自由なライフスタイルを楽しめるようになることを目指しています。
『Flex月経ディスク』は、日本に上陸して以来、ニッセイエコが展示会やECモールを通じ、多くの方たちに紹介していただいてきましたが、これからも日本の多くの女性にぜひ使用していただきたいですね。
女性にとって生理ケア用品は、月に1回は必要な製品ですから、アメリカのドラッグストアでブランドの取り扱いを強化していただいています。日本でも生理ケア用品を購入する場は、ドラッグストアが最適だと思います。
――ありがとうございました。
<記者の眼>
エベレストで遭難し死亡した友人との約束を守り起業
ローレンさんが会社を立ち上げ今日に至るには、こんな経緯があった。
「会社を創業する前はマーケティング会社に勤務していて、起業する予定はなかったのですが、私の友人たちから、『起業したらどうか』と言われ、後押しをされたのがきっかけでした。中でも友人の中に起業家がいて、ある日、その友人から『自分が経営している会社にCOOとして加わってほしい』と頼まれました」
こうしたやり取りが続く中で、ローレンさんは次第に、自分が経営者として生理用品を取り扱うビジネスを立ち上げる自信と勇気を持つようになり、そこからどのように事業として展開できるかを真剣に計画し始めた。
しかし数か月後、その大きな後押しをしてくれた友人は、エベレスト登山中の事故で命を落としてしまった。ローレンさんは途方に暮れたものの、亡くなった友人との約束を守り起業した。「このことも、今の事業を続けている大きな理由の一つ」だという。
「今では、アメリカのドラッグストアでNO.1となった『Flex月経ディスク』ですが、日本でもドラッグストアで取り扱っていただきたいと思っています。その理由は、日本のドラッグストアは、薬部門だけでなくサプリメントをはじめヘルスケア関連製品を多く取り扱い実績を上げていますから、Flexブランドの普及先としては最適ですし、ぜひ日本のドラッグストアでの普及が始まって欲しいと願っています」と語るローレンさん。
ナプキン、タンポン、月経カップに続く“第四の生理ケア用品”として普及が始まった使い捨ての月経ディスク。アメリカではドラッグストアルートで売れ行きNO.1とされているが、果たして日本では、どのような普及活動が展開され羽ばたいていくか注目したい。
編集部注:”月経ディスク”とは
子宮頸部の下に装着して月経血をキャッチする生理用品のこと。子宮口の手前で装着する点が、月経カップやタンポンとは異なる。漏れにくい、蒸れない、生理期間中の快適性を高められる、などのメリットが特徴。主に医療用シリコンで作られており、再利用可能なものと使い捨てのものがある。