ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

更年期を過ぎた女性には“素晴らしい人生”が待っている!/シリーズ「DgSと考える更年期」

【第1回】女性医療クリニックLUNAグループ理事長・関口由紀さんに聞く

関口由紀さん

――女性の更年期のメカニズムと更年期障害について、分かりやすく教えてください。


関口さん 生殖機能を含め、女性の体を形成する上で重要な役割を果たす性ホルモンの1つに「エストロゲン」があります。エストロゲンは16歳位から増加し、月単位で上昇下降を繰り返しながら40代をピークに減少が始まります。エストロゲンの減少とともに生理周期は不規則になり、45〜55歳に閉経を迎えるのが一般的です。


女性ホルモンがアップダウンしながら減少していく過程で、さまざまな疾病の発症に繋がります。これを総じて「更年期障害」と言っています。


例えば、女性ホルモンは脳の働きに影響するため、その減少が自律神経失調症をもたらします。代表的なホットフラッシュのほか、目眩、動悸、不眠などもそれにあたります。また、匂いや、体の痒み・痛みなど強く感じる感覚過敏になったり、これらの複合的な要因から、イライラや落ち込むなどの精神神経症状に陥ることもあります。


更年期障害は閉経後5年ほどで改善し、次に訪れるのが“ポスト更年期”です。女性ホルモンは体内のコレステロールを原料につくられていましたが、その作業がなくなることでコレステロール値が上昇します。さらに女性ホルモンによるサポートがなくなるため、血糖値や血圧のコントールも弱くなり、動脈硬化進行のリスクが増加していきます。


女性ホルモンは骨の代謝にも関与しており、減少すると骨の破壊がすすみ、骨密度が低下しやすくなります。また、ポスト更年期の約半数が抱えるのが外陰部、いわゆるフェムゾーンの悩みです。乾燥・痒み・痛みなどの皮膚症状、頻尿や尿もれ、再発性膀胱炎などの尿路症状、さらに性交痛や性交後出血による性的欲求の減退などが起こります。このほか、脳への影響により認知症の発症リスクも高まります。


なお、女性ホルモンが減少しても、男性ホルモンは比較的減少しないので、運動と食事習慣をしっかり保っていれば、筋肉量は維持できますが、ポスト更年期は運動不足になりがちです。運動不足が筋肉量の減少につながり、QOLの低下をもたらすので注意が必要です。

――更年期、またポスト更年期に意識すべきことは何でしょう?


関口さん 日本における50歳以上の女性の数は約2500万⼈。ざっくり言えば女性の約半数が閉経を迎えた方です。また、女性は90歳弱まで生きるので、閉経後の人生は40年近くあります。しかし70代後半から、「体が痛くて動けない」などの問題を抱える方が増えていきます。


加齢に伴う「体の不調」を完全に無くすことはできませんが、身の回りの最低限のことは自分で行い、例えば週に1度はお出かけするなど、楽しみを感じて過ごすことが健康長寿のコツです。90歳で“ピンピンコロリ”を実現するために、更年期、そしてポスト更年期の疾病リスクを回避することが、何より大切だと考えます。



――閉経前にできるケアはあるのでしょうか?


関口さん 人間は習慣の動物ですので、閉経後すぐに生活習慣を変えることはできないでしょう。ただ、仕事に家事に忙しく過ごす期間を経て、出産や子育てがひと段落した頃からホルモンバランスは崩れてきますので、そのタイミングで更年期後に起こり得るリスクを意識し、生活習慣を見直すことから始めて欲しいですね。


定期的に血圧や骨密度を測り、適度な運動をし、タンパク質やミネラル分の多い食事を摂ることはすぐにできるでしょう。このほか、睡眠の質を高めたり、お酒の量を減らすなどを、40歳を境に始めるのも良いと思います。



――ドラッグストアにできることはありますか?


関口さん 医者によって見解は異なりますが、私自身は市販薬やサプリメントの肯定派です。ドラッグストアの店頭には実にさまざまな商品がありますよね。何を選択すれば良いか迷いますが、自分の感性に合ったものを、まずは試してみてください。


試す際は必ず、「予算の上限を決める」「必ず1瓶(一箱)継続する」、もちろん「用法・容量を守る」を徹底し、効果感を得たら継続し、合わないと思ったり不安が生じたら、婦人科に相談するもの良いでしょう。


――婦人科は歯医者のように定期的に訪問すべき場所なのでしょうか?


関口さん 更年期を迎えたら「かかりつけ医」にかかるべきという意見はありますが、婦人科は、「生理のある女性を診る」という歴史が長いために、更年期の症状を広く扱う医療機関はまだ多くありません。


女性特有の症状を診る医療機関は、婦人科、内科、女泌尿器科の3科に分かれます。ただ、性器の診察は内科にできず、婦人科に行く必要があります。一方で婦人科は内科の知識に乏しい傾向があり、1つの科で全てを診ることは難しいのです。


3つ目の女性泌尿器科は比較的新しい分野で、血圧などの内科の領域も性器の領域も診ることができます。女性泌尿器科医の私の立場ではこれを宣伝したいのですが(苦笑)…その数が圧倒的に少ないのが現状です。



――患者自身のヘルスリテラシーを高める必要がありますね。


関口さん これは患者にも、また医者にも言えるのですが…。加齢に伴う疾病に向き合う際に、「全体最適」と「局所最適」の間に生じるズレを、いかに認識し対応するかが大事だと考えています。


例えば、骨粗鬆症の治療によって腎機能が低下したり、稀に顎骨壊死を生じる場合があります。また外陰部の症状を和らげる薬が目の症状に悪影響を与えたり、糖尿病の薬で外陰部が痒くなることもあります。ではそれらの治療をしなければよいかというと決してそんなことはなく、骨粗しょう症、糖尿病を治療しないと、高齢期に入ってから大きく生活の質が落ちたり、寿命が短くなったりするわけです。


要は、さじかげん。つまり全体最適と局所最適のバランスをとりながら、患者と医者がしっかり話し合い、双方納得の上で治療方針を決めることが重要です。患者には自身のQOLどこに置くかをしっかり伝える能力、一方の医者には、患者の本音を汲み取るコニュニケーション能力が求められると思います。


――更年期を経てポスト更年期に入った女性には、「素晴らしい人生が待っている」と言っておられました。


関口さん 閉経から約5年で自律神経失調症や精神神経症状から解放され、新しい人生が始まります。生殖と子育てを終えてから寿命が尽きるまで、人間の女性のみに約40年間の自由な時間が与えられるのです。この期間をより良く生きる権利が女性にはありますし、それを自ら積極的に手に入れて欲しいと思っています。


ただ、人はなかなか1人で楽しめないのも事実です。女性同士で集まるのも良いですが、今後は長生きする男性も増えますので、できれば彼らを、皆さんの遊び仲間に加えてあげましょう(笑)。これからのキーワードは「歳を取ったら男女仲良く!」です。



――それが実現すれば、世の中が平和になります!


関口さん 日本はどこよりも高齢化が進んでいる国であり、新たな社会のあり方を世界に示す役割があります。生活者の健康を見守っているドラッグストアにも、その役割の一端を担って頂ければと思います。


病気の多くは加齢が原因ですが、ドラッグストアには、その予防と初歩的なケアに関わる商品が揃っています。それでQOLを維持・向上できれば何よりですし、一歩踏み出して鍼灸やマッサージに通うのもありでしょう。個人的には、医療機関は最後の最後にたどり着く場で良いと思っています。ドラッグストアには、この辺の交通整理をしていただき、更年期のケアのみならず、ヘルスケア全体の玄関口になっていただきたいと思っています。



――女性にも、またドラッグストアのスタッフにも勇気をいただける話ですね!今回はありがとうございました!