12月12日、静岡県袋井市で、静岡理工科大学総合技術研究所「食農健康推進分野」講演会『プラネタリーヘルス入門〜産業イノベーションはネイチャーポジティブの流れの中で』を開催しました。
袋井市は、平成5年に「日本一健康文化都市」を宣言してから、心と体の健康に留まらず、家族や地域が温かく、都市と自然が調和しているなど、人もまちも自然もすべてが健康で、住みやすく、活力あふれるまちづくりを掲げている、まさに「プラネタリーヘルス」を目指している街です。
2021年にマレーシアで開催された「第8回健康都市連合国際大会」においても、市民が主体的に取り組む健康教室や防災対策、自然環境の保護など様々な「まちの健康」に関する活動に対し、WHO(世界保健機関)とAFHC(健康都市連合)から、ダブルで表彰を受けいます。
そんな袋井市の学校給食が、この度、JICAによって「プラネタリーヘルスな学校給食」として取り上げられました。
人の命を養う食は、環境負荷へのインパクトが最も高い項目になっています。
そんな中、学校給食は、プラネタリーヘルスの具体的な実践として注目されています。
学校給食法で掲げられている7つの目標は、
・健康な体づくり
・健康的な食習慣の基礎形成
・自然の恵みに感謝
・地域の食を知る
・社会のしくみを理解
・協力して楽しく食べる
・働く人たちに感謝
と、人の健康と地域、社会、自然に配慮された内容になっています。
食育を通して、食が自分の健康だけでなく、地域の農業やコミュニティ形成、社会に与える影響、自然環境に与える影響などを知ることは、社会人になってからネイチャーポジティブ経済的な観点を持ち、それぞれの分野であらゆるステークホルダーやバリューチェーンに配慮した仕組みを考える思考性を養います。
袋井市の学校給食は、地産地消に取り組んでおり、2012年度は地場産物購入金額が約350万円だったのに対して、2023年度は約3400万円と10倍となっており、地場産物を使用することによる月別CO2削減推定量(フードマイレージ)が1年で合計15.37t削減できるという調査結果も提示されています。
長年かけて袋井市の学校給食のプロジェクトを進めてきたのは、袋井市教育委員会おいしい給食課の石塚浩司係長です。並々ならぬご苦労をされたとのことですが、何事も一人の強い想いで動いていくのだと実感しました。
まだまだ地場産物だけを使っているわけでもなく、オーガニック給食というわけでもありませんが、頂きを目指しながら、学校給食・食育に誠実に向き合い、着々と地域の中で地に足のついたことをされているという印象です。それが、子供達の健康、意識を高めるだけでなく、地域の経済を回し、地球環境への配慮にも繋がっています。
食を通して、未来の世界を担う子どもたちから変えていく、素晴らしい取り組みだと感じました。この取り組みは、どの自治体にも展開できると思います。全国のスタンダードになることを期待しています。
プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)
地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表
予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。
(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は新1月月初旬に掲載予定です)