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ヘルスケア対談『国民の健康創造へ期待されるヘルスケアビジネス』/日本ヘルスケア協会 今西信幸会長&アイリスオーヤマ株式会社 大山健太郎代表取締役会長 

ヘルスケア対談『国民の健康創造へ期待されるヘルスケアビジネス』
日本ヘルスケア協会 今西信幸会長&アイリスオーヤマ株式会社 大山健太郎代表取締役会長


健康寿命延伸のキーワードは“未病と予防”、
そしてヘルスケア産業の振興


2013 年 6 月、我が国の健康政策は、日本再興戦略によって生命寿命延伸から健康寿命延伸へ方向転換し、ヘルスケア産業を育成し支える方針を出してから11年が経過した。2025年に33兆円市場形成を目指し施策が進められ、今日、様々な民間企業が参入し、国民の健康創造へ多くの商品やサービスが登場している。ではなぜ今、ヘルスケアビジネスが注目されているのだろうか。健康寿命延伸産業として期待されるヘルスケアビジネスの振興を目指す公益財団法人日本ヘルスケア協会(JAHI)の今西信幸会長と、園芸、ペット、家電、食品等々…ヘルスケア産業の一翼を担うアイリスオーヤマ株式会社の大山健太郎代表取締役会長に、『国民の健康創造へ期待されるヘルスケアビジネス』について語り合っていただいた。(司会進行役:ヘルスケアワークスデザイン代表・佐藤健太/文:流通ジャーナリスト・山本武道)


■ なぜ今、ヘルスケアビジネスなのか?


―― 世界に類のないほどのスピードで到来した我が国の高齢社会。65歳以上の高齢者が占める割合は、総人口の30%を越す時代がまもなく到来する中、国民の健康寿命延へ、ヘルスケア産業が注目されています。

今西 今日、ヘルケアケアという言葉そのものは広く知られるようになりましたが、誕生した経緯は意外に知られていません。分かりやすくいいますと、日本は世界最高の高齢国家で高齢者人口増大に伴い、国民総医療費が上昇し続けています。これまで日本は明治以来、人が生存する平均年数、つまり平均寿命が言われてきましたが、2000年にWHO(世界保健機構)が人の平均寿命は適正ではなく健康寿命という概念を出し、世界共通に健康寿命という概念が浸透してきました。

では平均寿命と健康寿命の違いは何かということですが、平均寿命は、寝たきりや重度の介護を必要とする人たちも含めていますが、これからの時代で大切なことは、寝たきりではなく重度の介護を受けずに自立して生存すること。この定義が健康寿命という概念であり、この定義は世の中に浸透するまでに24年かかり、世界の人々、日本の国民も今まさにヘルスケアへの道を歩んでいるのが現状です。

初めて健康寿命が2000年に提起されてわかってきたことは、現在、平均寿命と健康寿命の違いですが、平均寿命は2022年時点で男性が81歳、女性が87歳に対して、男性の健康寿命が72歳、女性は75歳です。この差は男性9歳、女性が12歳ですが、男性の場合、この9年間、女性は12年間、寝たきり、介護状態で過ごすことでいいのかといえば、そうではありません。9年間、元気で寿命を迎えることが大切であって、“ネンネンコロリ”ではなくて、“ピンピンコロリ”ですね。


JAHI・今西信幸会長


大山 ほんとにそうです。寝たきり状態にならないよう、重度の介護を受けることがないようにしていく時代になりました。健全で長生きをしていくことが、高齢社会が到来した今、国も地方自治体も、国民も一人ひとり、健康寿命延伸に向かわなければなりませんね。企業も同様です。そうした時代に向けて国も施策を進めていますので、私どもも、どんどんヘルスケアへの意識が強くなり、“健康”の二文字を合言葉に商品作りに力を注いできました。思いは、国民の皆さまの健康寿命をいかに延伸させていくかであり、国も企業も国民も同様な意識を持ち向上させていかねばなければなりません。


アイリスオーヤマ・大山健太郎会長


今西 今や、ヘルスケアは無視できない重要な産業になってきました。ヘルスケアは、世界的に産業振興のキーワードとなっていて、わが国の方策は、平均寿命を健康寿命に近づけようとしています。2000年以前は健康寿命ということ事態が言われていませんでしたが、WHOが提起した健康寿命をどう延伸させていくか。24年が経過した今、寝たきり、介護を受けることがないように、日々の生活を健全に過ごすためには“未病と予防”が重要な意味を持っています。それがヘルスケアなのですね。

当協会は2015年に設立され、今年で足掛け9年になります。ではヘルスケアとは、どのようなことを言うのでしょうか。わが協会では、ヘルスケアについて、「自らの『生きる力』を引き上げ、病気や心身の不調からの『自由』を実現するために、各産業が横断的にその実現に向け支援し、新しい価値を創造すること、またはそのための諸活動をいう」と定義しました。

近年では、ヘルスケアという定義が浸透し、産業界に参画する企業さんが相次ぎ、国民の皆さまの健康創造にどう貢献していくかに努力されていますが、アイリスオーヤマさんは、早くからヘルスケア産業に参入し、多くの商品を開発されましたが…。

大山 健康寿命の延伸は、どう健全に生きるかですね。ヘルスケアという言葉は、産業界では積極的に使用されるようになってきました。おっしゃられたように、国民の健康創造に多くの企業が取り組むようになり、私自身もヘルスケアビジネスに対する意識が年々強くなり、従って当社のビジネスも、今やヘルスケアという言葉は抜きにしては語ることはできなくなっています。 

当社の前身は、父の大山森佑が1958年4月に、小さな町工場、プラスチックの下請けとして創業した大山ブロー工場所ですが、それから6年後、私が19歳の時に父は亡くなり、私が受け継いだ当初は、このプラスチックを、どうしたら社会に役立てていけるか考えてきました。

それは、生活者が日常の生活で困っていることの解決に結びつき、便利で使いやすい商品の開発でした。特に高齢社会下における健康寿命延伸という言葉のキーワードは、“治療から予防”へという考え方、実践が不可欠になってきています。健康寿命延伸とは、どのようにして健康的に、そして健全に生きるか。すなわち健康寿命を、どのようにしたら延伸できるか。その鍵はヘルスケア産業の振興にあるということで、当社も単なるモノ作りではなく、どのような目的でヘルスケアビジネスを展開していくかにシフトしてきました。それが、健康で快適な生活のためのヘルスケア分野だったのです。

創業66年後の今、小さなプラスチック工場は、園芸、ペット関連、マスクやカイロなどの日用品、血圧計や体温計などの健康機器、照明、空気清浄機、生活家電、介護関連、米、水、健康食品、介護食品等々、ヘルスケア企業として歩んできました。これからも国民の健康創造へ、さらにビジネスを展開すべく準備を進めています。


■ 国民の健康づくりへ、ヘルスケア産業を広く振興するために…


―― 国民の健康づくりに振興が期待されているヘルスケア産業は、健康寿命延伸産業の大きな柱の一つですね。そのためにも、健康で楽しく快適な生活を支えるモノ作りが、要求されますが…。

今西 アイリスオーヤマさんが取り組まれておられるビジネスは、まさに当協会が振興を目指すヘルスケア産業の重要な部分でもあり、その目的は国民の健康創造にあります。現在もこれからも多くの企業さんが取り組んでいただきたい有望産業でもありますが、ただ国民がヘルスケアを実践していくことは、市場が拡大しているサプリメントがあれば、それでいいかというわけにはいきません。

健康寿命延伸時代は、心・体・頭を健康状態にしていかなければなりません。そのためには、具体的にどういうものがあって、どういう制度があるのかをきちんと念頭に置く必要があります。国民の健康創造へ、ヘルスケアという言葉は理解してはいても、その本質や、いつからヘルスケの普及が、どういう理由で始まったのはわかっていません。必要性を多くの方々に理解していただくために、当協会では2015年の創設から、ヘルスケア産業の振興の必要性を主張し、普及活動を展開しているところです。

後進国では、このヘルスケアという言葉が普及しておらず、病気になったら医療機関にかかる。つまり治療が優先になってしまっていますが、先進国では産業の中心は病気にならないよう病気を未然に防ぐのがヘルスケアであり、これからは国民の健康づくりへ、ヘルスケア産業を広く振興させていかなければなりません。アイリスオーヤマさんは、私が知る限り国民の健康創造に照準を当てたヘルスケア企業として理解しております。
 
大山 当社の原点は、生活者の潜在的な不便・不満を解消するソリューション商品を開発・提供するという、暮らしをより豊かで快適にするためのモノづくりにあります。国民の願いは、“健康長寿”で、そして“快適生活”ですから、当社は、健康長寿に関わるヘルスケア企業として、様々な商品を開発してきました。

時折、『アイリスさんは一体何屋さんなのですか?』と聞かれることもあります。私は、『何屋さんですか?』とお聞きなることに違和感を感じます。つまり当社が目指しているのは、人々の生活を豊かにするために存在するということです。ガーデニング、ペットライフ、収納、米や健康食品、マスクや使い捨てカイロ、ヘルス家電等々…これらは、すべて生活者のニーズ、つまり健康で楽しく快適な生活をしていただくためにあり、“健康”“で豊かな快適生活”に関わる商品は、すべてヘルスケアですね。

当社は、生活を豊かにすることで生活者のための健康+快適生活を支援することを目的として事業に取り組んできています。人々が、貯金をどれだけするかは将来のためであって、まずは今の生活をどのようにしたら健康で快適にするか。当社は、その“健康”に照準を当てて、快適生活の支援からスタートしました。それが収納箱とガーデニングへのプラスチックの活用でした。

かつて衣類は専用の箱に収納していました。しかし中身が見えないので、季節に応じて衣類を出したりしまったりする際には不便でしたが、透明なプラスチックで収納箱を作れば、使用者は収納箱に何が入っているか一目でわかるし、とても便利だと思いついたのがきっかけでした。

一方、ガーデニングに関しては、私自身がホームセンターに行った際に、高齢社会が到来すれば、小さい植木鉢はともかく、大きなものになるとけっこう重たいので、これを軽量なプラスチックにすべきだと考えて、製造し市場に出したのがプランタ・鉢でした。

当社は、メーカーでありながら自社で問屋機能を併せ持つメーカーベンダーとして需要創造・市場創造をする新しいユーザーインの形にたどり着き、人々が楽しむガーデニングに注目し品揃えを増やしてきました。“豊かな快適生活”は、ガーデニング市場では大きな鍵となります。 

庭で花を育てる楽しみ、野菜や果物を収穫する楽しみから、さらに飾って楽しむガーディニングであり植木鉢は必需品になっていますが、もちろん庭がなくても、マンションや戸建ての2階のベランダに軽量なプラスチック製のプランタを使用すれば、いろいろな花や野菜を手軽に栽培することができます。庭いじりやプランタを使用したガーデニングは、まさしく人々の快適生活に結びつき、しかも心が癒される。まさにヘルスケア産業でもあります。

今西会長さんが言われるように、元気で長生きをするためにもガーデニング分野は伸びてゆくビジネスであると思いましたし、こうした状況を踏まえれば、一人で暮らす高齢者をはじめ高齢社会には欠かせないビジネスとして、ペット分野にも参入しました。犬を飼ってみるとまさにペットは、室内で共に暮らすファミリー、家族の一員なのですね。ペットとの触れ合いは、健康寿命延伸にとっては重要な意味があります。


■ 高齢社会下にあってペットも人も“健康”でなければならない


―― 経産省の中にヘルスケア産業課ができて、様々な施策が進められています。ヘルスケア産業への扉は開かれつつあり、いろいろな企業が参入してきました。中でも高齢社会下にあって、家族の大切な一員でもあるペットのニーズが急増しています。

今西 ヘルスケア産業課が経産省内に発足してから、12年ぐらいだと思います。それまでは食品業界は農水省、医薬品業界は厚生労働省、環境面は環境省と縦割りでした。アメリカの場合、ヘルスケア分野を担当しているのがFDA(アメリカ食品医薬品局=Food & Drug Administration)という組織なのですね。フードアンドラッグであり、縦割りではなくて横割りの行政です。

日本では、経産省にヘルスケア産業課が設置されヘルスケア産業の育成がスタートして以来、企業の間で注目されるようになりました。そして当協会は、かつては一般社団法人でしたが、2023年に公益財団法人となり、様々な研究活動をサポートしビジネスの振興に取り組んできています。

ビジネスの創造は、異業種・異業態の企業同士がマッチングすることで、新しいビジネス価値の創造や問題解決に役立ち、双方の企業利益につながることが少なくありません。アメリカのようなFDAはありませんが、経産省がヘルスケア産業課を通じヘルスケア企業をサポートしていただくようになったことは、産業界としては大変大きなことでしたし、当協会にもヘルスケア産業に関わる部会が設置され、それぞれ活動しています。

「セルフチェック」「スマイル食普及推進」「減らせ突然死 救命・AED機器推進」「生き生きライフ(フレイル対策)」「野菜で健康推進」「機能性表示食品」などをはじめ21の部会があり、特にペットに関しては、当協会の日本ヘルスケア学会のヘルスケア科学部会にペットケアに関する研究会、ヘルスケア産業部会にペットケア産業が設置されています。

その目的は、ペットとの共生が人のヘルスケアにもたらす効用の研究、新たなペット市場の創造と飼育頭数の増加です。ペットとの共生は高齢者だけでなく子供の情操教育にもなりますし、子供の情操面の向上とペット市場の創造を目指し、様々な企業が生活者の健康生活のために共に学び、たくさんの商品が開発されてきました。


JAHI・今西信幸会長


大山 ペットは、孫と同様に可愛い存在です。それこそ40年前、ワンちゃんは番犬だったわけです。庭に括り付けて朝・夕に散歩させる。マンションに住んでいる人達は、ペットは飼えない時代が続きました。それが、今やペットは家族の一員として市民権を得ていますから、ペット市場は拡大し続けています。我が家には、わんちゃんは2匹いて、私の朝の食事を作る前に、家内が自分で全て献立を考えてペットの食事を作っています。

それとペットの衣類ですが、実は日本で初めてペットのウエアをデビューさせたのは当社です。そしてペットのケア用品としてブラシ、シャンプー、バスタブ、消臭剤、ウエットティシュ、おむつ、タオル、散歩用品など、ペットフード(犬・猫用、ジャーキー、レトルト、スナックなど)、犬小屋等々。これからもペット関連用品市場は、拡大するでしょう。

ただ課題はあります。それは、70代を過ぎると、ペットを飼わない方もいらっしゃるからです。その理由として、「ペットよりも先に自分が亡くなってしまうから…」が挙げられています。ペットは家族の一員ですから、亡くなると家族の落ち込みは大きい。そんなことを考えると、「ペットは飼いたくない」となるようです。


アイリスオーヤマ・大山健太郎会長


今西 私も大山会長と同様に犬は大好きです。しかし知り合いの中に、ペットと共に暮らしていると、どうしても「自由に旅行に行けないし、ホテル代も高いから…」という理由でペットと旅行に出かけることを断念したり、それに一番の問題は、「ペットよりも先に自分が死んだらどうなるか」や「自分よりも、大切にしていたペットが死んだ時に別れが辛い」といった時に、どうするか考えると、ペットはどうしても飼えないという方がおられます。

ですが先進諸国では、「自分がペットの世話ができなくなったらどうするか」という事態に対応してくれるシェルターという仕組みがあります。日本でもシェルターが、もっと普及すると良いと思っています。大山会長には、ぜひシェルターの普及に一役かっていただければと思いました。

これからの時代、ペットを飼っていると、どうしてもそうした事態になりますから、70歳を過ぎてから犬猫を飼うためにも、まずはペットを飼う人たち自身も健康で長生きをしなくてはなりませんね。そのためにも、自らの健康は自らが守るセルフケアが不可欠になります。動物を飼うためには、人間が長生きをすることです。

これまではペットケアということで、市場は拡大してきましたが、近年では人とペットとの共生については、ペットケアから人・動物・環境の健康を包含して“ワンヘルス(One Health)”という考え方になってきました。その根拠ですが、ドイツの古いデータですが、60歳で事故または病気で配偶者を亡くした方が、ペットを飼うと明らかに2年延命するというものでした。

ですから高齢社会には、人とペットの共生が、単に可愛がるだけでなく人の癒しや延命に、どれほど貢献するかがデータ化されているのです。こうしたことを、広く多くの人たちに知らしめることが大切でしょう。日本もそうした考え方が取り入れられて、当協会の部会でも話し合いが進められています。“ペットは人のためにある”、つまりペットの存在は、自分が生きるための糧にもなるというわけです。そのためにも、人もペットも元気で長生きをすることです。

大山 そうなんですね。犬をはじめペットを飼う人たちは、まず自身が健康でなければなりません。私自身も、健康管理には気をつけています。国民の皆さまに多くのヘルスケア用品を開発・提供する企業のリーダーとしては日々、食生活は規則正しく、朝食はきちんと食べ、昼は麺類、夜は外食をなるべくせずに家内の手料理、主に肉や魚を中心とした、たんぱく質の摂取を心がけ、炭水化物を控え目に…。そして運動は、60歳まで毎日のランニングを欠かさずしていましたし、70歳を過ぎてからは今もなお週3〜4回のジョギング、週1回のゴルフと全身を使う平泳ぎを500m続けています。

確かにペットとの共生がなくなると、人の落ち込みはすごい。私自身も犬との散歩は、自身の心と運動能力の改善にも結びついていると思っています。


■ ヘルスケア最前線としてのドラッグストアへの期待


―― 治療から予防へと医療の概念が変革しつつある中、国民の意識は、“未病と予防”に対する関心が急速に高まってきています。健康寿命延伸の最前線として、ドラッグストアの機能が重視されていますが…

今西 高齢社会の到来と国民のヘルスケアニーズの高まる中で、コロナ禍よるパンデミックが発生したことによって予防の重要性が改めて浮き彫りになりました。ドラッグストアや薬局をはじめ、多くのリアル店舗で来店客が減少するという事態にもなりましたが、コロナ禍によって医療機関のオンライン診療や処方箋発行もデジタルでの対応も始まり、医療のDX推進も急速に注目されています。

ドラッグストア業界は、1999年に経産省から産業として認められましたが、時を同じくして日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)も誕生し、設立25年後の今、9兆2200億円市場を形成するまでになりました。私自身、JACDS創設に多大な貢献をされた初代事務総長の宗像守さんが亡くなられた後、二代目の事務総長を引き継ぎましたが、これからも健康寿命延伸産業の振興を支える業態として、ドラッグストア業界の活動に期待しています。

ドラッグストアという業態は、地域に住む人々の健康創造支える、いわば“ヘルスケアスト・ステーション”でもあります。かつてドラッグストアの商圏は郊外型が多かったのですが、今や高齢者が歩いて買い物に行ける商圏への出店が増えていて、ヘルスケア関連商品が手軽に買えるようになってきました。単なる商品を買う場としてではなく、健康になるための場として連日、たくさんの地域住民が集まっています。
 
大山 プラスチック製造からヘルスケア産業の一翼を担ってきた当社は、縦割りの業種ではなくヘルスケアをキーワードとした業態でありますから、“健康”という二文字を意識して商品開発にチャレンジしてきましたし、予防という点では、新型コロナのパンデミックによって当社が製造・普及するマスクの需要が急上昇しました。

当社では、ペット専用のシーツを作っていましたので、その技術を活用して不織布のマスクを開発しました。ドラッグストアさんからの大量の需要にお応えすることができた背景には、殆どの企業さんが、商品化にあたって製造は外部企業に委託する中、当社は外部企業に依存せずにほとんど内製化してきたことが挙げられます。

できうる限り当社は、ドラッグストアさんのご要望に応えられるように全力をあげてきましたが、内製化によって素早くドラッグストアさんが来店客のニーズ応えられるように対応してきたことから、ドラッグストアさんとのパイプが非常に太くなりました。地域に住む生活者の方々からは、「こんな商品があったら助かる」との声や、バイヤーさんからも、「こんな商品はないか」「単品ではなく、もっと品揃えをしたいので関連商品を作ってほしい」といった様々なニーズにも対応できたのも、当社はメーカーであって品揃え業のベンダーでもあるからですね。

私も、ドラッグストアさんには買物に行きますが、ちょっとしたカゼ、胃の調子がおかしかったりした時に必要な医薬品は、薬剤師さんや医薬品登録販売者さんがアドバイスしていただけるし、商品も美しくなる化粧品、健康食品、日用品、近年では食品部門も充実しており、しかも処方箋調剤にも対応していただける。店舗まで行くのに300m、500mの範囲に広い店舗を構え、一か所で必要なヘルスケア商品を購入できるワンストップショッピング機能を持っているから、とても便利です。

そうした地域住民の生活を支える機能を持つドラッグストアさんですから、当社としても、当初は“快適生活”への品揃えだったのですが、今日ではヘルスケア企業としてドラッグストア業界の店づくりに役立つ“健康生活”のための商品開発を一歩一歩進めているところです。


■ 人々が健康になるためにセルフケア意識の向上が大切…


――わが国は、すべての国民が公的医療保険によって平等に医療が受けられるという世界に冠たる素晴らしい国民皆保険制度を1961年にスタートさせました。しかし年々、高齢者人口が増えると共に活習慣病の多発によって、国民総医療費は上昇を続けていますが…。

今西 国民病ともいわれている三大死因のがん、脳血管障害、心臓病に対して医学が進歩して新しい治療法が開発され実際に患者さんに使用され、それはそれで素晴らしいことですが、その分、医療費はかかるようになります。課題は現在、国民総医療費は46兆円、介護費用も含めると実に50兆円を超していることです。

国民皆保険という世界に冠たる現行の医療制度を維持するためにも、これから早急に進めなければならないことは、生活習慣病などの疾患の罹患率をどう減らしていくかです。当協会が主張していることは、現行の医療制度を守るためには、疾病率を減らさなければならなくなっており、国民も、より一層セルフケア意識を高め医療費の高騰を抑制する努力、そして企業のヘルスケア用品の開発力が必要です。

先進国のヘルスケア産業がGDPの4割といわれていますが、この数字は決して絵面事でなくなってきました。その背景には、多くのヘルスケア企業が参入し、人々が健康になるための用品を開発するなどヘルスケア産業界の存在は欠かせないからです。

アイリスオーヤマさんの健康戦略をお聞きして、すごく共鳴しています。国は、健康寿命延伸産業の振興に力を注いでいますが、そのキーワードは、何度も言いますがヘルスケアなんです。アイリスオーヤマさんに、もっと活躍していただきたいですね。
 
大山 ありがとうございます。ヘルスケア事業は、ほとんど大企業が参入されている分野ですから、さらに一歩先へ進まなくてはなりません。特にヘルスケア事業は先見性が不可欠になりますが、当社では毎週月曜日に開催する新商品開発会議から、多くのヒット商品を誕生させました。そのキーポイントとなるのが、すべて生活者目線、ユーザーインであり、会議に出席した担当者から提出されたアイデアです。

議論のポイントは、単なるアイデアではなく、発案者自身も生活者の一人として料理や掃除をし、花を植え、ペットと暮らすなかで、いろいろな不満・不便を見つけて商品開発に繋げていることです。当社の価値創造は、「もっとこうだったら良いのに…」「こんな商品があったら良かった…」など、すべては社員のアイデアがベースで、毎週月曜日には1000点の新しい商品が生まれており、今日、当社が取り扱っている商品数は2万5000点。すべてこの会議から登場しました。




■ ヘルスケアビジネスの将来展望


――国民の間に高まる“未病と予防”ニーズは、健康寿命延伸産業の振興に欠かせません。ヘルスケアビジネスの将来展望をお聞かせください。

今西 外国の方々から、「日本って今、世界最高の高齢者国家ですね これから財政面を含めて、保険医療制度はどうなるのですか?」といった質問を受けます。そこで私は、常に「日本は、こうした事態を乗り切れるシステムがある」と次のことを話しています。

「医療の財政面が厳しいのは、日本は確かに高齢者国家で、65歳以上の高齢者比率が29%を占め、生産年齢人口の減少、生活習慣病に罹患するケースが増えるので医療費が上昇しているが、日本は過去も今も、これからも現行の医療制度を維持するためにも、国も企業もヘルスケア産業の振興を進めているから…」

こう話すと納得されます。経産省にヘルスケア産業課が発足し、産業の振興を進めていますが、公的保険以外のヘルスケア・介護に関わる国内市場は、関連産業の市場拡大や新たなサービスの創出が見込まれ24兆円と算出されています。

成長産業としてのヘルスケアビジネスは、さらに様々な企業で取り上げられるでしょう。大切なことは高齢社会の到来に伴い、有望ビジネスのヘルスケア産業の担い手としての企業や、最前線のドラッグストアなどが共に手を取り合い、産業を振興していかねばなりません。

例えば、その一つとして、当協会では国民の間にまだまだ低い「フレイル」の認知度を上げ、予防を通じて国民医療費の増大に歯止めをかけることを狙い、フレイル予防に貢献する商品やサービスへのロゴマーク表示を推進しています。

そして、日本中に「免疫ケア」の大切さを伝え、一人ひとりが「免疫ケア」で健康に過ごせる毎日の実現を目指す運動である「げんきな免疫プロジェクト」の推進を支援しています。ヘルスケア産業は、これからも国民の健康創造ニーズの高揚に対応するビジネスとして、ますます期待されるでしょう。

ヘルスケア企業のアイリスオーヤマさんも、ぜひ当協会の活動に参加いただき、生活者の健康創造活動へのご支援をお願いいたします。

大山 商品開発にあたって、“健康”の二文字を合言葉に力を注いでいると申し上げましたが、私が常に社員に言い続けていることは、「今、ユーザーの方々が困っていることに対する商品開発には、SRGの3点が不可欠になる」ことです。

SRGとは、機能はシンプル(SIMPLE)に、価格はリーゾナブル(REASONABLE)に、品質はグッド(GOOD)の頭文字を組み合わせた当社独自のモノ作りの重要なキーワードで、この3点のバランスの取れた商品だけが市場にデビューしています。 

常に新しいモノ作りは、一つの業種にこだわらずに取り組まねばなりません。モノ作りの一番の悩みは人口の減少です。そして時代の流れを確実に捉えること。家電もヘルスケアとして普及に取り組むことで新しい創造が生まれます。そしてヘルスケア商品の開発にあたって価格も重要です。

今西会長のご期待に添えるように、我々は常に生活者が日常生活で困っていることを商品化し、これからもヘルスケア産業の振興の一助として強化していくことにしています。


<取材を終えて>

日本ヘルスケア協会は、2015年11月に一般財団法人(現公益財団法人)として発足した。その目的は、健康寿命を延伸させるヘルスケア産業界の意見を政策に反映し、その振興および推進を支援する第三者機関を求める産業界の声と強い要望を受け、設立以来、ヘルスケア産業の各業界と団体、企業が有する事業の可能性および社会性を精査し、国民の健康寿命延伸と産業の育成を図ることだ。

「若い世代も負担できる医療費で、いつでもどこでも誰もが医療を受けられる、わが国の優れた現行の医療制度を維持するためにも、ヘルスケア産業を振興し、国民の間にセルフケア(ヘルスケア)意識を向上させなければならない」(今西会長)

2025年に開催される大阪関西万国博覧会のメインテーマは、『いのち輝く未来社会のデザイン』。そしてサブテーマが、『多様で心身ともに健康な生き方/持続可能な社会・経済システム』とあり、もともと“ウエルネス&ヘルスケア」”を標榜する万国博覧会でもある。世界に向けて、“ウエルネス&ヘルスケア”を発信する大阪関西万国博覧会に期待したい。

ヘルスケア対談にご登場いただいたアイリスオーヤマの大山健太郎会長は、1964年に19歳でプラスチックの下請け業を受け継いでから、今年でちょうど60年。同社のモノ作りは、「生活者視点」「商品開発力」「変化対応力」「物流力」「市場創造力」「高い志」という六つの企業理念がある。健康生活に欠かせない商品は、これらの理念から誕生した。

水(強炭酸水)、空気清浄機、クリーナー、冷蔵庫、調理器具、洗濯機、サーキュレーター、炊飯器、レンジ、入浴剤、防災グッズ、ペット、ガーデニング、LED照明、生鮮米、健康食品、洗濯機、高齢者施設用家具・インテリア、テレビ、電動ドライバーや電動工具、寝具、布団クリーナー、見守るドアホン、脱毛器等々、日常生活をサポートするアイテムの豊富さには驚くばかり。

「アイリスさんは、何屋さんですか?」と聞かれるのも無理はない。こうした商品は、毎週月曜に行われる商品開発会議から生まれたアイデア商品ばかりだ。これからドラッグストアの店頭には、商品開発会議からの選りすぐり商品が、果たしてどのくらい登場するだろうか。