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聞こえない!①〜ケアマネ福田英二の徒然日誌その17

2024年8月6日(火)曇りのち晴れ 79年目の広島平和記念日です。


認知症の高齢者や一人暮らしの高齢者にとって、なんといっても重要なのは「意思の伝達」とりわけ「他者とのコミュニケーション」であろう。そして、話すというよりも「聞く」ことが大きな意味を持つ。したがって「聞こえない」という事態が、本人が気にしている以上に、また周囲の人が想像する以上に問題を引き起こしてしまう。

先日の電話はそんなことが原因で、「叔母と連絡が取れない」というものであった。

連れ合いを亡くして一人で住んでいる叔母のことで、遠方に住む親族に警察から保護したと連絡が入った。が、肝心の叔母に連絡が取れない、何とか様子を見てきてほしい。そんな連絡が包括支援センターにかかってきたのだ。

よくよく聞いてみれば、 叔母さんにはお子さんもなく、ご主人が亡くなってからはずっと一人で生活をしている。元キャリアウーマンの叔母さんもここ最近は、 ご近所のお友達もみな高齢となり、自分の母親である姉もみな遠方に住んでいて、互いの行き来も疎遠になってしまった。しかも悪いことに耳が遠くなり、電話をかけても出ることがなくなってしまった。いよいよ互いの連絡を取ることもなくなった、そんな折に今回の警察からの連絡であった。


詳しい情報もなくとりあえず実際にご自宅に向かってみたが、何とも連絡のしようがない。ご自宅入り口のインターホーンを押しても何の反応もない。何度も押し続けるが同じことである。門扉越しに部屋の電気がついているのを確認し、外には洗濯物が干してあるのを発見する。


どうやら叔母さんは無事のようだ。ひとまず安否は確認できたが、実際にご本人と会わずに帰るわけもいかない。しばらく家の周りを観察しながら、意を決して再度玄関をたたきドアを開けてみる。するとなんと…開いていた!。親族の方に電話して入室の許可をいただき、部屋の中で倒れていないことを一心に祈り、恐る恐る玄関から入ってみた。

玄関から部屋の中を覗いて、おばさんの暮らしぶりを把握する。すると、どこもきれいに掃除されていて、きちんとした暮らしぶりが見える。クーラーもかかっているし、乾燥防止の加湿器からも白い煙が出ている。

これで先ずは安心できた。生活が荒れていて話も出来ない状態ではなさそうである。とはいえ親族の話ではかなりの認知障害があるとの情報である。直接お会いして少なくとも認知症の程度を確認する必要がある。

肝心の叔母さんは姿が見えないし、大きな声で呼びかけても出てこない。おそるおそる進んでいくと、居間のソファーにもたれるように寝ているのが見える。大声で声をかけるが反応はない。ぐっすりと眠りこんでいるようだ。なるほど、これが「聞こえない」ということなのだと理解した。

ここまで来たら直接声をかけるしかない。そして、来意を伝え、親族の心配をお伝えすることになるのだが、これからが支援の始まりである。 (つづく)

◇ ◇ ◇

―― 一人暮らしに限らず高齢者が自身では生活が難しくなった時、 「他者からの支援を受け入れる」ことが求められる。しかしこの生活の変化は、「自分のことは自分でする」という従来の社会の作法とは大きく対立する。 「支え・支えられる関係」を作るには、「他者との関係性」「他者を受け入れること」そして何より「意思を伝えること」が周囲との関係を円滑にさせると感じる。気持ちを酌むこと、寄り添うこと、そして意思を伝えること、図らずもこれが介護の基本である「気づき・見守り・声かけ」に対応する最も大事な要素である。次回はこの 3 つの介護の基本について考えてみよう。