ある人が言った。――育児の話題はママ友と共有できても、介護はその背景や程度の差が大きく伝えにくいーーと。食事の不都合に始まって、認知症や寝たきり状態など、受け入れ難い現実を前に一人悩んでいる介護者は少なくない。そんな方々の支えになりたいと、先頃アサヒグループ食品は、「試して、話して、ホッとしよう!介護のお悩み共有会」を開催した。参加者からは、各々の悩みが本音で語られ、メーカーや小売業がそこにどう寄り添い解決していくべきかを考えさせられるイベントだった。(取材と文=八島 充)
「試して、話して、ホッとしよう!介護のお悩み共有会」は、「バランス献立」や「オーラルプラス」などシニア向けの商品に携わる同社有志の発案で実現した。介護に携わる、あるいは関心のある一般の方10人がアサヒグループの本社に集まり、座談会形式での進行となった。
アサヒグループ食品は、「“食べる”をずっと楽しく」をコンセプトに、要介護者の食と口周りの課題に応えてきた。相談会では、日々の食事の留意点や誤嚥性肺炎のメカニズムを解説し、同社商品の紹介と試食を行ないながら、参加者の疑問・質問に答えていた。
自己紹介の段では参加者の声のトーンも低かったが、各々が語る介護の状況に共感するほどに、会は熱を帯びていった。在宅で毎日、または週に1、2回通うなど様々な立場から、日々の悩みや、向き合う姿勢、独自の工夫などが披露され、主催者側にも学びの多い会になったようだ。
やはり参加者の多くが介護における「食」で悩んでいる様子で、自身で調理する難しさや煩わしさのほか、市販の介護食を購入する際の悩みが話題にのぼった。
興味深かったのは、販売店に対しての意見。「購入したくても揃えている店がまだまだ少ない」「(介護者の)体は元気なので “寝たきり”をアピールした売場には抵抗感がある」「食が細いので栄養価の高いもの、特にタンパク質を強化した商品を探している」などの声は、バイヤーも参考になると感じた。
また、「嚥下機能の程度に合せた商品選びを誰に聞けば良いのか」「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の4規格(容易にかめる/歯ぐきでつぶせる/舌でつぶせる/かまなくてよい)を知らなかった」という声もあり、まだ情報提供が行き届いていないという現実も浮かび上がった。
試食タイムでは、UDFの規格に基づく「バランス献立」シリーズの食べ比べや、とろみ剤(「とろみエール」)を加えてサイダーを試飲してもらった。参加者からは「規格の違いが良くわかった」「塩分控えめなのに味がしっかりしている」のほか、昨年にシリーズに加わった「スプーンで食べるおもち」は、「ぜひ親に食べさせたい」との意見が出た。このほか、「お赤飯」や「エネルギー等を追加できるトッピング」の商品化を望む声も聞かれた。
試食の後は、「オーラルプラス 口腔ケアシリーズ」を、担当者の指導のもとに体験していた。誤嚥性肺炎は「誤嚥」「免疫機能の低下」「口腔内での細菌増加」の3つが重なって起きやすくなると説明されると、食事以外に手が回らなかった参加者から「これからは口腔ケアもしっかりと実施したい」との声が上がった。
相談会は予定された120分に収まらないほど盛り上がって終了した。閉会後に主催者の1人である岸奈津美シニアチームリーダーに話を聞くと、次のように答えてくれた。
「コロナ禍で生活者の方々と直接接する機会が減っていたことから、今回の相談会を開催しました。オンラインでは伺えない本音が次々に出てきて、メーカーとして何をすべきかを再確認する貴重な機会になりました。各々が介護と前向きに向き合い、さまざまに工夫を凝らしていることがわかりましたが、UDFの規格をご存じない方もおり、私たちの情報提供が足りていないことは反省材料です。商品の提供は基本的に店頭ですが、陳列しているだけでは伝わらないこともあるので、今後も弊社ブランドサイトやマスコミの活用などを通じ、介護する方の助けとなる情報の発信を続けていきたいと思います」
アサヒの介護食サイト:https://www.asahi-gf.co.jp/special/senior/foods/
アサヒの口腔ケアサイト:https://www.asahi-gf.co.jp/special/senior/oral-care/