治療から予防重視へ医療の流れが変革しつつある中、早期発見・早期治療の二次予防の普及活動が重視されている。その活動の一環として、民間企業が開発した尿や便による自己検査キットの普及活動が始まり、リスクの発見と医療機関への受診率アップ活動が活発化してきた。これからは医療機関に出向かなくても、検査キットを購入し自身で尿や便を採取し検体をラボに送ることで、結果はスマホで見られる時代が到来しつつある。がんリスク検査キットは、現在、医療機関や保険組合、通販とともに一部のドラッグストアを通じ、自己検査キットの普及活動が始まっているものの、実施する店舗数は極めて少ないのが現状だ。こうしたメリットが国民の間に浸透してくれば、普及はさらに進むことは間違いないだろう。そこで今、どのような企業が、どのような取り組みをしているのか。自己検査キットによる早期発見・早期治療の二次予防活動に取り組む最前線をレポートしていくことにしたい。(セルフケアビジネスPTチーム)
2006年、がん対策基本法施行の必要性を、命をかけて叫んだ一人の国会議員がいた。そのことは『週刊がん もっといい日』(外部サイトhttps://weekly-gan.com/41/)で紹介されている。
以後、がん対策基本法に沿って対策が講じられているものの、それでもがん患者は増え続けている。
1981年から今日まで死因の1位を占め、2人に1人が生涯のうちに何らかのがんにかかり、3人に1人が亡くなる時代。
国立がん研究センターがん情報サービスが公表した2023年推計値によれば、年間39万6000人(男性 22万9000人女性16万6000人)が亡くなり、部位別では男性の場合、肺がんが最も多く死亡全体の24%、次いで大腸(13%)、胃(12%)、膵臓(9%)、肝臓(7%)、一方、女性は大腸がんが最も多く(15%)、肺(14%)、膵臓(12%)、乳房(10%)、胃(9%)の順。
がん罹患数の2023年度推計値では、103万4000人(男性58万9000人、女性44万4000 人)。部位別の上位5疾患は、大腸がん16万1100人、肺がん13万2000人、胃がん12万9000人、前立線がん9万8600人、乳がん9万8000人。以下、膵臓がん、肝臓がん、悪性リンパ腫、腎・尿路(膀胱除く)、子宮がんと続く。
男女別では、男性は前立腺がん、大腸がん9万、胃がん、肺がん8万、肝臓がんが上位に挙がり、膵臓がん、食道がん、腎・尿路(膀胱除く)、悪性リンパ腫、膀胱がんの罹患者が多い。女性の場合は、乳がんが最も多く、次いで大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がんの順。以下、膵臓がん、悪性リンパ腫、甲状腺がん、卵巣がん、皮膚がんだ。
がん対策推進基本法が2007年4月に施行されてから17年後の今、「第4期がん対策推進基本計画」(2023年3月に閣議決定)がスタートした。
その目標は、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、すべての国民とがんの克服を目指す」ことにある。
その実現を期するため、「がん研究をさらに促進し、がん予防に資する技術開発の推進や医薬品・医療機器等の開発によるがん医療の充実を図るとともに、がん患者やその家族等の療養生活に関する政策課題の解決を図ることが必要」と同計画に記されている。
がん予防分野の目標では、「がんを知り、がんを予防すること。がん検診による早期発見・早期治療を促すことで、がん罹患率・がん死亡率の減少」を掲げ、具体的には一次予防(生活習慣・感染症対策)、がんの二次予防(受診率向上対策、がん検診の精度管理など科学的根拠に基づくがん検診の実施)、がん医療では、適切な医療を受けられる体制を充実させることで、がん生存率の向上・がん死亡率の減少・全てのがん患者及びその家族等の療養生活の質の向上を目指すことも盛り込まれている。
がんとの共生分野の分野別目標については、「がんになっても安心して生活し、尊厳を持って生きることのできる地域共生社会を実現することで、すべてのがん患者及びその家族などの療養 生活の質の向上を目指す」として、
(1)相談支援及び情報提供(2)社会連携に基づく緩和ケアなどのがん対策・患者支援(3)がん患者なの社会的な問題への対策 、サバイバーシップ支援―就労支援・アピアランスケア・がん診断後の自殺対策・その他の社会的な問題(4)ライフステージに応じた療養環境への支援(小児・AYA世代 、高齢者)が挙げられているものの、がんの検診率は増えていない。
なぜなのだろうか。がん対策基本法には、「がん検診の現状については次のような課題がある」と指摘されているので紹介したい。
◆がん検診の受診率は増加傾向だが男性の肺がん検診を除き50%に達していない
◆受診者のうち30〜70%程度が受診している職域での検診は任意で実施されており、実態を継続的に把握する仕組みがない
◆精密検査受診率は都道府県及びがん種による差が大きく改善が必要である
◆しかも十分な検証なしに指針に基づかないがん検診を実施している市町村(特別区含む) は約80%と高い状況が続いている
◆より正確、低侵襲、簡便、安価な方法が提案されているものの、対策型検診への導入までのプロセスが不透明かつ煩雑であること
こうした課題に対して、様々な機会を捉えて、がん予防の活動が民間レベルでの取り組みが始まっている。
がん対策では、4期対策基本法に盛り込まれている、早期発見・早期予防への第二次予防のためのがん検診率と医療機関への受診率向上に取り組まなければならないことは必至だ。
そこで近年、登場したのが、がんのリスク自己検査キット。がんの早期発見・早期治療の二次予防へ、定期的ながん検診率の向上と医療機関への受診率をサポートするためのものだ。
がん予防には三つの方法がある。
がんにかからないようにするための一次予防、早期発見・早期治療の二次予防、再発や転移を防ぐ三次予防だ。
これからは、特にがんを早く見つける早期発見が重要であり、もし疑わしき状態であれば即医療機関を受診し、しかるべく治療を受ける必要があることは言うまでもない。
国民総医療費が45兆円(2021年度:年前年度比4.8%増)を超え、介護保険費用11兆円も含めると56兆円に達しているだけに、地方自治体が実施している定期健診、企業の保険組合とタイアップした人間ドック、自費による健診などを受診する必要がある。近年では二次予防として、がんのリスク発見のための自己検査キットが開発され普及活動が始まっている。
ただし、がんのリスク発見のための自己検査キットについて大切なことは、もしも高いリスクが見つかったら即医療機関を受診することだ。自己検査キットは、がん検診の動機づけであり、医療機関における検診率向上を促すためのもので、がんの存在有無を確定するもではない。自己検査キットの普及ルートは、今のところ医療機関や保険組合、企業が取り組む健康経営、さらに一部のドラッグストア啓蒙活動が行われるようになってきた。
国が奨励するがん予防、特にがんの二次予防である早期発見・早期治療のための検診率アップの必要性が指摘され、普及活動が進められてはいるが、しかしがんは減らない。
「忙しい」「めんどう」「日頃から気をつけているから大丈夫」などといい、がん検診を受けない国民が存在するからだ。
がん検診を受けずに、がんになれば、莫大な医療費が必要になる。
がん検診は、まさに“転ばぬ先の杖”でもあるのだ。
地方自治体では、毎年1回、市民のための集団健康診断に大腸がん、胃がんを盛り込んだ検診活動を続け、その結果、疑わしきは「要精密検査」の通知が届き医療機関へ再度の検診に行かねばならないが、「もしも、がんが見つかったらどうしよう」「仕事があって、ゆくチャンスがない」などと検診を受けないケースは少なくない。
近年、ドラッグストアチェーンのトモズでは、都内の店舗にクイズに答えながら楽しくがんについて学べる『みんなのがん学校』を開設している。
目的は、がん検診の受診率を向上させるためだ。痛みを伴わない次世代がんリスク検査キットの販売を開始したドラッグストアチェーンのサツドラ、富士薬品グループのドラッグストアチェーンのセイモアでは線虫がん検査、愛知県を中心に、近年では都内への出店を強化しているスギ薬局チェーンも、早くからピンクリボン運動に協力し乳がんの検診を呼びかるなど、二次予防へ店頭を通じ、がん対策に取り組むドラッグストアが徐々に増えてきた。(続く)